2013/05/21

記事:看護師、海越え独自養成 中国人急増 現地で日本語講座・月給3倍

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看護師、海越え独自養成 中国人急増 現地で日本語講座・月給3倍

紙面写真・図版
ナースステーションで先輩の指導を受けながら、看護記録をつける姚紅偉さん(右端)=京都市伏見区の武田総合病院、林敏行撮影
 中国人の若者らが日本の医療現場で看護師としての第一歩を踏み出している。中国の大学は送り出しに積極的で、日本の看護師不足を背景に、今後ますます増えそうだ。厚生労働省は実態調査を考えていないが、外国人の手を借りずにやっていけるのかどうか国は検討を始めるべきだ、との指摘もある。▼1面参照
 「人見知りするので、(配属先の)病棟に慣れることができるか心配」。京都市伏見区の武田総合病院(500床)で4月上旬にあった中国人看護師の新人研修。今春、国家試験に合格したばかりの江蘇省出身の姚紅偉(ようこうい)さん(25)は、先輩の中国人看護師らに打ち明けた。
 「言葉の壁があり、難しいこともあるかもしれない。でも、笑顔を忘れずに頑張って」。看護師2年目の劉菁(りゅうせい)さん(26)が励ました。
 同病院には日本人を含め379人の看護師がいる。中国人は10人で、うち新人は姚さんら2人。研修には、系列病院からも4人の中国人の新人が参加した。
 姚さんの配属先の内科病棟には、約50人の入院患者がいる。「いち、に、いち、に、って声に出して」「しんどくない?」。脳疾患で1人で歩くのが難しい高齢男性の歩行練習につき添う。男性は「話をよく聞いてくれる。日本人と何ら変わらない」とほめる。
 姚さんは4年制大学・安徽(あんき)中医学院(安徽省)の1年生の時、「日本語を学ぶ講座の説明会がある」と大学から知らされ、軽い気持ちで参加した。
 説明会には、京都市伏見区のNPO法人「国際医療福祉人材育成機構」のスタッフもおり、日本で看護師として働けば月給は30万円、と教えられた。中国の大病院の3倍以上だ。日本語の講座は週に2、3回、大学の講義が終わってから夜まで2、3時間続いた。
 同期9人で2010年7月に来日。武田総合病院で看護助手として働きながら京都市内の日本語学校に通い、2度目の挑戦で今年3月25日、看護師国家試験に合格した。昨春、不合格の際は、寮で一晩中泣き明かした。日本人の看護部長に「恥ずかしい。もうこの病院にいられない」と手紙を渡した。部長から「逃げちゃだめ」と諭された。
 まだ看護記録を日本語でまとめるのが難しい。中国にはないカタカナも苦手だ。武田総合病院との契約期間は3年で、更新もできる。でも、将来は帰国して結婚したいという。
 姚さんの実家は、南京市からバスを乗り継いで3時間半の農村。日本での生活費を切り詰め、両親にお金を渡してきた。これまでに200万円ほどになる。実家は、平屋から3階建てに新築された。
 日本の病院には、経済連携協定(EPA)に基づいて働くインドネシアとフィリピン人の看護師もいる。
 関東地方のある中堅病院は4年前、インドネシア人の看護師候補生を2人受け入れた。1人は国家試験に合格したが、別の1人は不合格で帰国。院長は「漢字圏でない候補生が、合格するのに必要な日本語力を身につけるのは難しい。EPAは効率が悪い」と話す。
 今春、初めて中国人の女性看護師(27)を1人採用した。東京都内の日本語学校から紹介された。院長は「中国人を雇用するルートが開拓できた。年に1人は確保したい」と言う。
 この看護師はNPOに頼らず、自力で来日。中国で看護師の経験があり、1年目で日本の国家試験に合格した。「日本の漫画が好き。同じ漢字でも、患者さんの名前の読み方が違うのが難しい。日本で何でもできる看護師に早くなりたい」。ほほ笑みながら、そう話した。
 (神元敦司)
 ■報酬改定で争奪激化、在留期限撤廃も背景
 中国からの看護師候補生の受け入れが急増する背景には、日本の診療報酬制度の改定と外国人医療従事者の在留資格の撤廃がある。
 厚労省は2006年、医療の高度化と高齢化対策などのために、入院患者7人に看護師1人とする「7対1」の配置基準を新設。手厚く配置する病院ほど診療報酬が増えるため、それまでの「10対1」から切り替える病院が相次いだ。看護師の引き抜きや取り合いが激しくなり、深刻な看護師不足に陥った。
 その一方で法務省は10年に、出入国管理法の省令を改正し、外国人医療従事者の在留期間を7年以内とする制限を撤廃した。一定期間ごとに更新すれば長期就労が可能になった。
 厚労省は看護師不足対策として、子育てなどで職を離れた「潜在看護師」の復職支援や、離職を防ぐための病院内保育所の開設などに、都道府県を通じて補助。当面は約55万~65万人いるとされる潜在看護師の掘り起こしに努め、EPA枠以外の外国人の確保に力を入れる予定はないという。
 岐阜県内の公立病院の元看護部長は「電子カルテ化が進み、医療機器も日進月歩で変わっている。現場復帰が難しいのは、体力的な問題以外にも気後れがある」と指摘する。
 長崎大大学院の平野裕子教授(保健医療社会学)は「少子化で看護の若い担い手は減るが、高齢化によって看護を必要とする人は逆に増える。外国人看護師の手を借りずにやっていけるのかどうか、国は検討を始めるべきだ」と話す。
 中国からの看護師候補生の来日はますます増える可能性が高い。漢字の素養があるうえ、EPA枠のインドネシア、フィリピン人に比べて日本語学習への支援が手厚いからだ。NPO法人「国際医療福祉人材育成機構」は中国の23大学と提携。06年から現地で日本語講座を開き、受講する学生は当初の数十人から300人ほどに増えた。13年には、76人が来日するという。
 中国・大連市の大連医科大学は日本語講座を受講する学生を現在の40人から160人に増やす計画だ。国際交流責任者の韓記紅さん(45)は「中国でも高齢化が加速度的に進む。日本の先進看護を学び、中国に戻ってきて欲しい」と語る。

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