2013/10/11

記事:格安航空の攻勢にさらされるシンガポール航空

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[FT]格安航空の攻勢にさらされるシンガポール航空

2013/10/10 7:00
日本経済新聞 電子版
(2013年10月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 「シンガポールガール」が乱気流に突入しようとしている。シンガポール航空の広告の象徴であるシンガポールガールは長年、申し分のない信頼 性とアジアの優雅なもてなしのイメージを放ってきた。あの、パリのファッションデザイナーの手による巻きスカートをまとった客室乗務員である。

チャンギ空港を歩くシンガポール航空の客室乗務員=ロイター
チャンギ空港を歩くシンガポール航空の客室乗務員=ロイター

 このイメージは、世界の航空業界で最も認識され、最も信頼されるブランドの1つを生み出すことに貢献した。また、財務面で最も成功した航空 会社の1社を支える助けにもなった。シンガポール航空は上場以来28年間、通年決算で一度も赤字を出したことがない。1950年代にジェット機の旅客便が 始まって以来、ずっと赤字を垂れ流してきた業界にとっては、事実上、前代未聞の偉業だ。

■急拡大する中間層から恩恵を受けるLCC
 だが、アジアの航空業界には変化の風が吹き荒れている。マレーシアの起業家トニー・フェルナンデス氏が所有するエアアジアなどの格安航空会社(LCC)が、シンガポール航空やキャセイパシフィックなどの既存の航空大手の市場シェアを着実に奪ってきたからだ。
 こうしたLCCは、アジアで急拡大する中間層から恩恵を受けている。何しろ今では何百万人もの人が初めて航空券を買う余裕ができるように なった。LCC同士の競争が運賃を超安値に押し下げており、インドネシアでは、ライオン航空やエアアジアといったLCCの往復航空券がわずか80万ルピア (72ドル)程度で手に入る。
 LCCがいかに早く今の地位を獲得したかを示す1つの指標がある。東南アジアで一大勢力になってから10年たった今、LCC各社は同地域の総座席数のほぼ半分を占めている(オーストラリアの調査会社センター・フォー・エイビエーション調べ)。
 これに対し、イージージェットやライアンエアーなどの格安航空が欧州連合(EU)市場で占める同等のシェアは40%だ。とはいえ、欧州における格安航空の歴史は古く、アジアのLCCの少なくとも2倍の長さに上る。
 これでもかというように、シンガポール航空は、市場における構造的な変化の逆風に直面する。まず、エミレーツ航空やカタール航空、エティハド航空など、中東を本拠とする航空会社がアジアに進出してきている。
 盛んに言い立てるオーストラリアへの「カンガルールート」は、シンガポール航空にとって極めて重要な路線だ。オーストラリアおよび南太平洋 地域全体が旅客収入の18%を占めているためだ。だが、他社もこのルートに進出している。マレーシア航空もその1社で、同社はダーウィン便の運航開始を計 画する。

■LCC創設、ヴァージン提携で対抗
 シンガポール航空も立ち止まっているわけではなく、この3年間、アジアでの地位の強化に取り組んできた。

香港便の就航を発表したシンガポールのLCC、スクートのキャンベル・ウィルソンCEO(中央)
香港便の就航を発表したシンガポールのLCC、スクートのキャンベル・ウィルソンCEO(中央)

 昨年は機体を粋な黄色に塗り上げたLCC子会社スクートを立ち上げた。若者に売り込む狙いもあり、スクートは短期休暇で人気の高いオースト ラリア・ゴールドコースト便と台北便を飛ばしている。2011年のヴァージン・オーストラリアとの提携も奏功し、シンガポール航空は既に運航していたオー ストラリア国内の6つの目的地に加え、新たに26カ所の供給地に乗り入れ可能になった。
 最新のアイデアであり最も興味深いのが、インド事業だ。シンガポール航空は、紅茶から通信事業まで幅広く手がけるコングロマリット(複合企 業)のタタ・グループと組み、新しいインド航空会社を立ち上げる計画だ。先月、この事業が発表されたときには、一部で驚きをもって受け止められた。タタは 既にフェルナンデス氏と提携関係にあるからだ。
 だが、新会社創設の狙いは、フルサービスの国内航空会社を立ち上げるだけでなく、インドから中東やその先へと西に向かう旅客を獲得することにある。シンガポール航空はこれで逆襲に出て、亜大陸から西へ向かう直行便で湾岸諸国の航空会社に戦いを仕掛けることになるわけだ。
 これがどんな結果になるかは、まだはっきりとは分からない。シンガポール航空はスクートに2億8300万シンガポールドル(約220億円)を投資しているが、黒字化はおろか収益がとんとんになる時期さえ、まだ明らかにされていない。
 シンガポール航空は、LCCの影響があったことを認めているが、高級路線の航空会社から格安航空まで幅広く事業を手がけることにより、経営 はヘッジされていると主張する。同社は規模も拡大しており、スクート向けの20機を含め、エアバスとボーイングへの確定発注数が200機に上っている。
 だが、コンサルティング会社ストラテジックエアロリサーチ・ドットコムのサージ・アフマド氏は、湾岸諸国の航空会社は買い替えが必要な旧型機が少なく、そのため、より積極的になれると指摘する。

■新興国での成長減速も逆風
 残念なことに、世界経済は頼りにならない。アジアの航空業界の見通しは、全般的な地域経済の成長見通しの下方修正によって暗転するだろう。 国際航空運送協会(IATA)は先月、主に新興国での成長減速を理由に、アジア太平洋地域の航空会社の業績予想を引き下げ、今年の利益は従来予想より15 億ドル少ない31億ドルになると述べた。
 シンガポール航空は正しい対策をたくさん講じている。だが、データストリームの世界航空株指数と比べると、シンガポール航空の株価は年初 来、23%採算ラインを下回っている。株主がシンガポールガールに対する信頼を維持するためには、もっとがっしりした体格が必要だろう。

By Jeremy Grant
(翻訳協力 JBpress)

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